世界のねじを巻くブログ

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『こころの処方箋 』人の心など、わかるはずない 【Kindle】

【河合隼雄の名作】

本日紹介する本は、
京都大学名誉教授、そしてユング心理学の第一人者である、
心理学者の河合隼雄によって書かれた著作。
村上春樹のエッセイにもよく登場するほど有名な方です。

新年度を迎え、疲れが溜まってきた方、
心理学の観点から書かれた本書をお勧めします。

【悩むサラリーマンも】

臨床心理学者であり幾多のカウンセリングを手がけた著者が、
普段私たちがこころのどこかでは納得しているが、なかなかことばにできないような常識をエッセイとしてまとめたものである。
その内容は26作目を数える上前淳一郎の人気シリーズ「読むクスリ」に通じるものがあり、人々の疲れ気味のこころを癒してくれる。(Amazon商品説明より)

 

【印象に残った部分・感想】

  人の心がいかにわからないかということを、確信をもって知っているところが、専門家の特徴である    Location 68

 本書の冒頭から、上記のような言葉が出てきます。
「おいおい、大丈夫かよ」と思ってしまいましたが、
心理学者でも人の心は理解できるものではない、という内容が何度も繰り返されており、日本を代表する心理学者でもそう言うなら、そいういうことなのかもしれません。
自分も無理をして相手の心を理解しようとしなくていいのだ、と思うと少し気が楽になりました。

●印象に残ったのが、「己殺して他人を殺す」の章。
「己を殺す」と言っても、やはり自分は生きているのだから、自分を殺し切ることなど出来たものではない。言うなれば、己の一部分を殺すわけであるが、面白いことに、その殺された部分は何らかの形で再生してくるようである。あるいは、殺したつもりでも、半殺しの状態でうめいているかも知れない。とすると、このように、本人も知らぬ間に再生してきたのや、半殺しの存在やらが、本人の気づかぬところで、急に動き出すこともあるはずである。 Location 506
そうすると、やはり自分を生かすことによって他人を生かすことを考えられえれば一番なのであるが、それも自分勝手だ、と思われてしまいそうです。
会社の中では、個性を発揮しつつも、周りに迷惑が掛かっていないかを確認するぐらいが自分を「生かす」ベストな方法なのではないでしょうか。
 

「心の処方箋」は「体の処方箋」とは大分異なってくる。現状を分析し、原因を究明して、その対策としてそれが出てくるのではなく、むしろ、未知の可能性の方に注目し、そこから生じてくるものを尊重しているうちに、おのずから処方箋も生まれでてくるのである。 Location 105

自然破壊に反対するからと言って、何もかも「自然のまま」であるのがいいとは言っていない。人間というものは、自然を自然のままではおいておくことが出来ない。自然に反しつつ、なおかつ、自然とどのように共存するかという課題を背負っている。Location 392

マジメな人は自分の限定した世界のなかでは、絶対にマジメなので、確かにそれ以上のことを考える必要もないし、反省する必要もない。マジメな人の無反省さは、鈍感や傲慢にさえ通じるところがある。自分の限定している世界を開いて他と通じること、自分の思いがけない世界が存在するのを認めること、これが怖くて仕方がないので、笑いのない世界に閉じこもる。笑いというものは、常に「開く」ことに通じるものである。
Location 610

私は、他人を真に理解するということは、命がけの仕事であると思っている。このことを認識せずに、「人間理解が大切だ」などと言っている人は、話が甘すぎるようである。 Location 876

これがカウンセリングを続けてきた河合隼雄の言葉の重み。

 

われわれの人生は、そのような「楽譜」を与えられるにしろ、演奏の自由は各人にまかされており、演奏次第でその価値はまったく違ったものになる、と思っている。Location1304

こういった音楽での喩えは良いですね。
指揮者のカラヤンとバーンスタイン、プロでもあれだけ違うものです。

 

ある人がどの程度の強さをもっているかを前もって知っておくことが必要なときがある。そんなときに、その人が適切な感謝をする力があるかどうかは、相当に信頼できる尺度のように筆者は思っている。Location1543

これはかなり鋭い。
最近の自分自身を振り返ってみても、最近心から感謝を表すということは少なく、ただ「ありがとう」と口に出すだけになってしまうことが多いので、気を付けたいです。

一人で楽しく生きている人は、心のなかに何らかのパートナーを持っているはずである。 Location1615

ものごとの「奥行き」を知るためには、二つの異なる視点をもつことが必要だと言えそうである。ひとつの見方だけだと、平板な見方になってしまって、立体像が浮かびあがってこないのである。 Location2007

両目(二つの視点)で見ないと立体視はできない、うまく言ったものですね。
ブログを書く際も、自分の立場と相手の立場、過去と未来等、2つの視点から見ることで思わぬ発見があるかもしれません。

たとえば、われわれは自分が「西洋的」と思うことを学んだり、真似をしたりしているが、それは真の「西洋」の姿を覆い隠すことになっていないだろうか。逆に、これで「日本的」というようなことを外国に売り出して、それによって真の日本の姿を外に対して覆い隠すようなことをしていないだろうか。Location 2240 

レッテルを貼ることで、知ったようなふりをしてしまうってこと、ありますよね。

最後にこの一文を。

一般的な意味において、「幸福」を手に入れたい人は、何らかの断念が要るのではなかろうか。 Location2324 

 

【ユング心理学も活用】

京都大学名誉教授、しかも心理学者によって書かれた本、
ということで身構えた方も多いかもしれません。

正直読む前は『こころの処方箋』というタイトルに胡散臭さを感じずにはいられませんでしたが、難しい言葉を使わずに、人間の複雑な心をしっかりと捉えて書かれており、よくあるビジネス本よりも得られる物は多かったです。
人の心を研究している心理学者によって書かれた本だけのことはありますね。
紹介した以外に、100点以外がダメな時もある」、「マジメもやすみ休み休み言え」、「灯を消す方がよく見えることもある」、「真実は劇薬なので使い方を間違うと大変なことになる」等、心に残る言葉がたくさん見受けられました。

 著者も後書きに書いていましたが、本書は当たり前のことが書かれています。
そのような当たり前だと思っていても、いざ言葉にしようと思うとなかなか難しいという部分を文章にしたのが本書でなのではないでしょうか。
20年以上前に書かれたものだということで、今では少し時代の違いを感じてしまう部分もありますが、また読み返してみたいと思わせてくれる一冊でした。

紹介した部分はごく一部なので、ぜひKindleでも読んでみてはいかかでしょうか。

こころの処方箋

こころの処方箋