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『沈黙-サイレンス-』遠藤周作の原作を踏まえた映画版の見どころ

【映画の前に小説版のおすすめ】

遠藤周作といえばやはり『海と毒薬』が有名ですが、
この作者の傑作としてもう一つよく挙げられるのが、キリスト教がテーマの『沈黙』。

なんとこの小説が2017年1月21日(土)に『沈黙-サイレンス-』としてあのマーティン・スコセッシ監督によりハリウッド映画化したものが公開されます。

マーティン・スコセッシ監督といえば、『ディパーテッド』や『タクシードライバー』、『グッドフェローズ』等名作を生み出す映画界の巨匠

窪塚洋介や浅野忠信など、日本人の俳優も出演します。

今回せっかくなので、『沈黙』を初めて知ったという方や、原作を読んだことがない方に向け、ネタバレなしで軽く紹介してみたいと思います。

【あらすじ・ストーリー】

キリスト教宣教師の間に、「ある有名なキリスト教父が鎖国時代の日本でキリスト教を棄教した」という驚くべき報告が知れ渡ります。
主人公ロドリゴは、自分が小さい頃お世話になった方がキリスト教を裏切ったことが信じられず、真実を確かめるべく、宣教師としてロドリゴは日本へ上陸しますが・・・。

 ネタバレなしで書くとあまり大したことは書けないのですが始まりはこのような内容。

【小説を踏まえた映画版のみどころ】

原作の『沈黙』を踏まえ、映画で個人的に注目している点をいくつか書きたいと思います。

  1. 主人公ロドリゴの心情の変化をうまく捉えられているか?
    神はなぜ、このような苦難を信徒たちの上にお与えになるのか、私にわからなくなることがあります。 『沈黙』 location577
    小説版ではロドリゴの内面の感情の変化が事細かに描写されており、読者は主人公の心情の揺れに入り込むことができます。
    しかし映画となると、これはかなり難しいでしょう。
    主人公に自分の感情を込めたセリフを延々と言わせるわけにもいかず、どのように主人公の内面を描くのか。
    あなた(=神)はいつまでも沈黙を守られたが、あなたはいつまでも黙っていられない筈だ。『沈黙』 location 1980
    スコセッシ監督の手腕が大きく問われます。


  2. 欧米から見た当時の日本のキリスト教とは?
    遠藤周作自身は「日本人でありながらキリスト教徒である矛盾」に悩み続けました。その影響もあってか、この小説では日本でのキリスト教がすごく歪なものとして描かれています。江戸時代なので仕方ありませんが、遠藤周作はこの舞台を用いて「日本の異質さ」を強調して描いているように思います。
    欧米人(=スコセッシ監督)の視点からすると、「異国のキリスト教」というのはどのように映るのでしょうか。
    映画版(=映像)では小説以上にこの部分が剥き出しになると個人的に考えており、見逃せないポイントの一つです。


  3. キチジローのキャラクター描写

    人間のうちでも最もうす汚いこんな人間まで基督は探し求められたのだろうかと司祭はふと考えた。悪人にはまた悪人の強さや美しさがある。しかし、このキチジローは悪人にも価しないのだ。
    『沈黙』 location 2262

    やっかいものだが人間の弱さを抱えたところが憎めないキチジローというキリシタンが小説には登場します。
    話が進むとわかりますが、キチジローは言うまでもなく、イエスキリストを裏切ったユダがモチーフ。
    主人公とキチジローの関係はこの物語に大きく関わってきます。
    映像であのキチジローの行動を見せられるとなると、ただの嫌な男に映ってしまうのではないか、と個人的に心配しています。

    主人公以上に、キチジロー役である窪塚洋介の演技がこの映画の出来不出来を左右すると言っても過言ではないでしょう。
    日本人役者としての実力を見せてほしいところです。

最後に、遠藤周作が『海と毒薬』で神について書かれたお気に入りの引用を。

 「神というものはあるのかなあ」 「神?」
「なんや、まあヘンな話やけど、こう、人間は自分を押しながすものから──運命というんやろうが、どうしても脱れられんやろ。そういうものから自由にしてくれるものを神とよぶならばや」
『海と毒薬』 location 965 

【Kindle版もぜひ】

あのスコセッシ監督も絶賛する遠藤周作の『沈黙』。
実はKindle等の電子書籍でも出版されています。
日本の小説を原作としたハリウッド映画は珍しく、遠藤周作を読んだことがないという方も作品に触れてみる絶好の機会と言えるでしょう。
これから映画を観る予定の方も、映画を見終わったという方も、ぜひKindle版にて原作を振り返ってみてはいかがでしょうか。

沈黙(新潮文庫)

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