【小栗康平監督による劇場版】
2017年9月6日より、「午前十時の映画祭」で宮本輝の名作『泥の河』が公開されます。(※地域により公開日が異なります)
原作の小説『泥の河』は学生の頃からの愛読書なのですが、
映画の再上映に備えまた読んでみたので、改めて感想を書きたいと思います。
[※追記(2017.9.23):映画版を観てきたので箇条書きで軽く感想を追記しました。]
「午前十時の映画祭って何?」という方は下記の記事をどうぞ。
【宮本輝の処女作】
この『泥の河』は戦後の大阪・安治川の河口に住む少年と、川の"舟"に住む貧しい少年との交流を描いた作品。
映画は1991年に公開された、小栗康平監督による白黒映画になります。
まだ映画版は観たことないのですが、かなりしっかり戦後の時代が描かれてそうです。
映画の内容はまだ書けないので、小説版について書きたいと思います。
原作『泥の河』は100ページ以下なのに、話の展開もかなり濃く、
冒頭の馬車の場面、お化けの鯉、天神祭、ハイライトである蟹のシーンなど見所がたくさん。
映画でどこまで再現されているのかわかりませんが、非常に楽しみです。
降りしきる雨が粘土色の川面に無数の波紋を落としていた。濃い藍色の水がその中で縞模様を描きつつ渦巻いている。汚物の群れが橋げたにぶつかってくるくる廻っていた。信雄はしたたる雫を掌でぬぐうと、必死になって川面を探った。 「うわあ!」 そして思わず叫んだ。薄墨色の巨大な鯉が、まるで雨に打たれるために浮きあがってきたかのように、水面でゆっくりと円を描いていたのである。
宮本輝 『泥の河』より 位置:163
「もう戦争はこりごりや」
「そのうちどこかのアホが、退屈しのぎにやり始めよるで」
宮本輝 『泥の河』より 位置: 81
アニメ映画『この世界の片隅に』を観て思いましたが、
一般市民の心に響くのは、やはり戦争そのものより戦争に振る舞わされる人々の姿。
『ハクソー・リッジ』や『プライベート・ライアン』ももちろん迫力があってよいのですが、共感できるのは、一般市民が生き抜く姿でしょう。
まあ、そうはいっても明日は迫力たっぷりの『ダンケルク』見に行きますが笑
【川三部作】
宮本輝の小説といえば、やはり"川三部作"が有名です。
『泥の河』『蛍川』『道頓堀川』の3つ。
いずれも川を舞台にした人々の生活を描いた作品です。
なぜか『泥の河』だけ「泥の川」ではなく 「泥の河」なんですよね・・
川三部作の中でも僕は『泥の河』がフェイバリットです。
他にも短編や『青が散る』など名作揃いの宮本輝、読んだことがない方はぜひ。
文章が綺麗でかつ読みづらくもなく、登場人物の心情をそこはかとなく描くのが本当に巧いと小説家だと思います。
【レビュー・感想】
※追記(2017.9.23):「午前十時の映画祭」で映画版を観てきたので箇条書きで軽く感想を。ネタバレ注意。
- 全体的に小説の雰囲気をしっかり再現している
- みんな演技がうまい。
- 子役も良い味でてる。
- 馬でさえ演技がうまい笑
- 手品のシーンもしっかり健在
- 小説以上に戦争と向き合う感じだった。戦争の傷跡のクローズアップとか。
- 原作にある、幼鳥を潰すシーンがなかった。飛行機を盗むシーンもカット。
- 天神祭のシーンの再現度はかなりのもの。
- ところどころで出てくるユーモアが映画の暗い雰囲気をうまく和らげている
- 病院や学校のシーンなど、原作にはなかった場面を空気感を壊さずに加えている
- お父さん役の田村高廣がかっこよすぎ。
- 銀子ちゃんも小説通りの静かだけどどこか惹きつける演技がすごかった。
- 喜一の蟹を燃やすシーンは、もっと狂気的に撮った方がよかったと思う
- ラストシーンでお化け鯉が出なかったのが意外だった。これは小説どおりにすべきだったのでは?
- 見てはいけない大人の世界をみて育っていく構図は「アラバマ物語」と似ているかも
映画館で観れててよかった。じんわり心に残る映画でした。
【Netflixでもぜひ】
今回再上映される『泥の河』、「午前十時の映画祭」機会を逃すとなかなか映画館で観ることはできないでしょう。
「でも午前10時に映画は厳しいなぁ」という方は、あの映像配信サービス「Netflix」でも見ることができますので気になる方はネットでもどうぞ。
小説版は 大阪人、いや、関西人なら必読の一冊です。
Kindle版(電子書籍)でも読めるので、気になる方は原作の小説をぜひ。
- 作者: 宮本輝
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