【村上春樹も影響を受けた作家】
今回紹介するのは、現代アメリカ文学を体現する小説家の一人であるカート・ヴォネガットの卒業式スピーチをまとめた本です。
カート・ヴォネガットといえば、『タイタンの妖女』『猫のゆりかご』『スローターハウス5』 等の衝撃作をいくつも書いたSF作家であり、『モンキー・ハウスへようこそ』は特に何度も読み返しました。
そんなヴォネガットが独特のブラック・ユーモアを交えながら人生の教訓を示してくれるのがこの『これで駄目なら』という本です。
原題は『IF THIS ISN'T NICE WHAT IS?』であり、スピーチの際中に色んな文脈で何度も登場するセリフになっております。
現代アメリカ文学を体現する小説家
まずはダン・ウェイクフィールドという方による「序文」から。
彼は「芸術家の社会的機能は、人々が以前にも増して人生を好きになるようにすることだ」と書いている。たとえばと訊かれて、「ビートルズがやったことだね」と答えた。 location52
こういうことを言いながら、実際に体現しているところがかっこいいですね。
僕もブログを読んでくれる方が「以前にも増して人生を好きになる」ような記事を書いていきたいと思います。
「……わざわざわたしの本を読んで、教育を受けた人のように振る舞おうという人にお知らせします。わたしの本には性的なことも、いかなる形でも暴力を擁護するような議論も書かれていません。人々により親切に、責任をもって行動するようにお願いしているだけです。登場人物の口が悪いのは本当です。実際、現実の人間は口汚いわけですから。特に兵士と肉体労働者は口が悪い。どう隠したって子供たちはちゃんと知っています。実際、そういう言葉が子供を大きく傷つけることはないのです。自分たちが若かった頃を思い出して下さい。我々を傷つけるのは、凶悪な行為と嘘なのです location 155
こういった彼のとにかく素直な部分が、いろんな層から人気を集める理由の一つともいえます。
実際、ヴォネガットの小説がSFという形を取りながらも妙にリアルな雰囲気を持っているのはそのためでしょうか。
実体験を元にしてSFを書き、サイエンス・フィクションでありながらも嘘がない、
そんなイメージです。
また、本の中でも言及されますが、卒業式スピーチをする人物としては人気があったものの、ヴォネガット自身は大学を卒業していないそうです。
本を読むことをやめてはいけない。本はいいものだ──ちょうどいい感じの重さがある。指先でやさしくページをめくるときのためらい。わたしたちの脳の大部分は手が触れているものが自分にとっていいものなのか悪いものなのかを見定めるのに使われている。どんなちっちゃな脳でも、本はいいものだとわかるんだ。 location 458
僕はこの本を電子書籍で読んでいたため若干の罪悪感を感じましたが、読書をする人にとっては救われる言葉ではないでしょうか。
電子書籍だけでなく、指先でページを感じる本も大切にしていきたいですね、
わたしたちの政府と企業とメディアとウォールストリートと信仰と慈善事業団体がどれほど堕落し貪欲になったとしても、音楽は完璧に素晴らしい存在のままだろう。 location 682
ブルースは抑鬱を家から掃き出してくれるんじゃなく、部屋の隅に追いやってくれる。location 707
ヴォネガットは音楽が好きなことでも有名であり、特にジャズとブルースについてはなんども言及しています。ジャズ好きの村上春樹がカート・ヴォネガットの文体に大きく影響を受けていることは有名ですが、音楽が二人の文体を支えていることは間違いないでしょう。
ブルースを聴いたことがないという方は、下記の記事からブルースを聴き始めてみることをおすすめします。
芸術にかかわることで、うまくできてもできなくても、魂は成長する。ほんとのことだ。シャワーを浴びるときは歌い、ラジオを聞いて踊るんだ。語り手になろう。 location 1312
「芸術」なんてレベルには遥かに及ばないですが、ブログを書いたり、絵を描いたり、小説を書いたりする人にとっては大きな励みになる言葉かと思います。
上記のような文章を読むと、僕も小説を書かねば、という気持ちは高まるばかり。
物語を語れるって素晴らしいですよね~
何日かいいことが続いたなら、いいほうの異常が続いたってことだ。location 1327
こういったシニカルな思考がヴォネガットらしくて好きです。
村上春樹が好きな方にもおすすめ
ところどころブラックジョークで挑発したり、場を和ましたりする彼のスピーチがまとめられた一冊。読めばヴォネガット流の人生の教訓というものを学ぶことができるでしょう。 Kindle版で気軽に読めるのでぜひ。
- 作者: カート・ヴォネガット
- 出版社/メーカー: 飛鳥新社
- 発売日: 2016/02/04
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