世界のねじを巻くブログ

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地下鉄サリン事件から22年『終わりなき日常を生きろ/宮台真司』感想

【世界初のバイオテロ】

今日2017年3月20日は、あの「地下鉄オウムサリン事件」からちょうど22年とのこと。
以前、オウム真理教について書かれた本を読んだので、少し感想を書きたいと思います。

まず、地下鉄サリン事件とは何だったんでしょうか?
僕の世代ではぼんやりとしか知らない方も多いかと思いますので、詳しく知りたい人はウィキペディアを読んでみてください。
地下鉄サリン事件 - Wikipedia

 地下鉄サリン事件が大きく取り上げられた理由としては、死者数13人・被害者6,300人という数ももちろんですが、「世界初の無差別バイオテロ事件」であったこと、
また、オウム真理教の幹部がいわゆる”高学歴”の大学出身の人ばかりで構成され、さらに医者という人の命を最も深く考えるはずの職業である人も、この無差別テロ事件に加担していたことなどが理由に挙げられます。

【感想・レビュー】

今回紹介する本は、宮台真司さんという方が書かれた『終わりなき日常を生きろ』というタイトルの著作。
この著者の名前は初めて知ったのですが、宮台真司さんは当時女子高生の行動を社会構造の変化から考察して話題を呼んだ社会学者とのことです。
紹介する著作も、ブルセラショップに通う女子高生とサリン事件の間には密接な関係がある等独自の視点で書かれていました。

この本の中で特に印象に残ったのは下記の文章。

私たちの時代には「良きことをしたい」という良心への志向が強ければ強いほど、「何が良いことなのか分からない」という不透明感が切迫し、透明な「心理」への希求が高まる。その結果、たとえば彼らが救済という「良きこと」に向けて強く動機づけられていればいるほど、児戯のようなフックに引っかかって世界観を受容する。
『終わりなき日常を生きろ』 P62 

「良心的でありたいのに、何が良きことなのか分からない」時代の中、「終わりなき日常」に適応しそこなった人たちは「必ずや訪れる未来の救済の日」を信じざるを得なかったのだ、という内容。

ハルマゲドンと称された『大いなる救済のための犠牲』という図式を信者がなぜ信じ込んだのか、少し理解できた気がします。
あの「尊師マーチ」を見ても馬鹿馬鹿しいと思えないレベルまで洗脳されていれば、サリン事件が起こるのは当然だったかもしれませんね。

「終わりなき日常を生きる知恵」をブルセラショップに通う女子高生から見いだそうとする作者の試みは今の時代から読んでも非常に斬新でした。

他にもマインドコントロールはどのようにして為されるのか、「末端の信者はいい人」ではない、等オウム問題を深く考察した内容が書かれていました。

【信者数を増やすオウム】

サブカルチャーの「動き」の中にこそ、オウム問題の真の姿がある、とする独自の視点から書かれた本ですが、リアルタイムではそれほど記憶がない僕でも非常に興味深く読めました。

最後に、この不安定な世の中に警告をならす意味で、下記文章を引用しておきたいと思います。村上春樹さんがオウム信者へのインタビューをし集めた『約束された場所で』という本より。

私たちの日常生活と、危険性をはらんだカルト宗教を隔てている一枚の壁は、我々が想像しているよりも遙かに薄っぺらなものであるかもしれないのだ。 
村上春樹著『約束された場所で』 P332より

今なお、オウム真理教は世界各地で信者数を増やしているそうですが、
二度とあのような惨事が起こらないことを心から祈ります。

終わりなき日常を生きろ―オウム完全克服マニュアル (ちくま文庫)

終わりなき日常を生きろ―オウム完全克服マニュアル (ちくま文庫)

村上春樹が地下鉄サリン事件の被害者へのインタビューをまとめた本の感想もどうぞ。