『悪魔の辞典』のパロディー本
もう五年ほど前に、京都の古本屋で見つけた『乱調文学大辞典 / 筒井康隆』。
この本を一言であらわすと、
”アンブローズ・ビアスの『悪魔の辞典』の筒井康隆版パロディー”
ということになるかと。
本の裏側にのっているあらすじを引用するとこんな感じ。
真面目な人、ふざけたことが嫌いな人、笑わされると怒る人、書物に教養を求め る人、文章には思想がなければならぬと思っている人、この本はそういう人たち には無縁のものである。上の範疇に入ら ぬ方のみ、この本をお読みいただきたい。 と著者が華麗なる狂気をもって世に問う文学辞典決定版! 巻末付録もついてお ります。
この"巻末附録"の「あなたも流行作家になれる」はふざけているようで、実はわりとまともな小説論を書いていて面白かったり。(それはまた別の機会に)
※追記(2025.1.15): 書きました。
まあとにかく、文学大辞典や ビアスの『悪魔の辞典』を筒井康隆なりに解釈した、
雑誌の連載をまとめた一冊です。
1975年出版で、なんとお値段220円。
さすがに物価の変化を感じるな・・・。
筒井康隆のコメディ辞書
・・・ということで、個人的に気に入っていることばをいくつか引用してみようかなと。
いわなみ・しょてん 【岩波書店】 「星の王子さま」意外によってSFを出したことのない一流出版社。
きさい【奇才】 こう呼ばれて世にもてはや される頃は、奇才ではなくなっている。
きゅうばしのぎ 【急場凌ぎ】 新人の作品 が日の目を見ること。
きふく【起伏】 小説中の男女が何度も寝たり起きたりすること。これの少い小説は、 起伏に乏しいといわれる。
キャリア 決定打の出ない作家が、職歴のな がさを自分で誇る時に使うことば。
そりゅうし【素粒子】 中性子、中間子、電 《子、陽子、光子、猛子など、SFに登場 する女性(あるいは中性)の総称で、いずれも気が荒い。
ちゅうたい 【中退】 作家への道。
ツタンカーメン エジプトのラーメン
にいじまーじょう 【新島襄】 同志社を開校した宗教家。同窓会に出席できなくなるからこの人は茶化さないことにします。
ひきげき【悲喜劇】きんたまが浴槽の吸込口に入って抜けなくなること」
(※大江健三郎の小説ネタ)
りきゅう【利休】 発明家。利休下駄、利休
箸、利休焼、利休茶、利休簞笥、利休ネズ
ミなどを発明した。
などなど。
「ん」の項目もちゃんとオチがついてて面白いので読んでほしいなと。笑
昔からこういう毒のあるユーモアを含む文章に憧れるので、
古本屋で何の気なしに買ったこの本、わりと何度も読み返したりしてます。
まさに「私の一冊」。
サクッと読めるので、
筒井康隆のエグ味が苦手、という人でもわりと楽しめるはず。
筒井先生、『カーテンコール』を最後に引退されるそうだけど、
あと何作か書いてほしいな・・・。
(※『百年の孤独』のあとがきでも抜群の文章力を発揮していてさすがだった)
オチがないけど、そろそろこの辺で。
※このブログ記事は、
私の一冊 Advent Calendar 2024 - Adventar の9日目に書いた記事です。