【海外で評価も良い作家】
今や日本を代表する作家、村上春樹。
彼は日本のメディアに自分から登場することはめったにありません。
しかし海外、特にアメリカのメディアには比較的協力的であり、ニューヨークタイムスにコラムを投稿したり、短編小説を寄稿したりもしています。
今日は、そんな村上春樹を海外はどう見ているのかを知るきっかけになる一冊を紹介します。
【本の概要】
日本人作家ハルキ・ムラカミに、なぜ世界は熱狂するのか?
アメリカ、フランス、韓国、中国――。世界各国の作家、ジャーナリストが、謎に包まれた村上春樹の人物像と文学の真価を探る。 Amazon 内容紹介より
*この電子書籍は、「ニューズウィーク日本版2013年5月21日号」に掲載された特集から記事を抜粋して編集したものです。
【印象に残った部分・感想】
「小説家はうまい嘘をつくことによって、本当のように見える虚構を創り出すことによって、真実を別の場所に引っ張り出し、その姿に別の光を当てることができる」と、村上は09年のエルサレム賞授賞式で演説した。 Location40(Locationとはkindle上のページ数を表します)
「真実をそのままのかたちで捉え、正確に描写することは多くの場合ほとんど不可能だ。だからこそわれわれは、真実をおびき出して虚構の場所に移動させ、虚構のかたちに置き換えることによって、真実の尻尾を捕まえようとする。しかしそのためにはまず真実のありかを、自らの中に明確にしておかなくてはならない。それがうまい嘘をつくための大事な資格になる Location42
5月3日、ボストン爆破テロ事件を受け、村上はニューヨーカー誌に「ボストンへ。ランナーを自称する1人の世界市民から」を寄稿し、報復を牽制した。 9・11テロの衝撃をくぐり抜けた村上としては当然の行動だ。この寄稿の中で興味深いのは、彼が地下鉄サリン事件の悲劇に触れていること。9・11テロが村上のアメリカ観を一変させたように、サリン事件は彼の日本と日本人に対する見方を変えた大きな出来事だった。 当時、村上はアメリカに住んでいた。日本の文壇は彼の文学性を理解できなかった。「(日本の)評論家たちは僕のことを嫌った」と、彼はずばりと語った。「それで日本を去った」 Location75
当時アメリカに住んでいた村上に日本へと視線を向けさせたサリン事件は、
よほどの衝撃を受けたのだな、ということを知ることができます。
また、インタビューで評論家に理解されないことがアメリカへ移った理由の一つであることを明かしていたことに驚かされます。
サリン事件について書かれた『アンダーグラウンド』は過去記事を参照↓
日常生活の表面さえ突き破れば、その先には実は熱いものがあるという感覚を教えてくれる小説だ」 「私にとっては、それが『ねじまき鳥クロニクル』の魅力だ」とフランゼン。「この世界では表面に見えるよりもずっといろいろなことが起きていて、それを見つけるには外の世界に出ていく必要はない。私は内側に入っていく。見つけるために穴の中に下りていく」 Location237ブロガーとしても、物事を表面的に捉えたものよりも、
自分というフィルターを通して出てきたものを記事にしていきたいです。
「人の心を不思議に打ち解けさせるものがあるんだよ」 これは、アオという登場人物がエルビス・プレスリーのある曲について語る感想だが、その表現はそっくりそのまま、村上春樹の日本語に当てはめることができる。 Location133
「人の心を不思議に打ち解けさせるもの」が彼の文章にあるのは誰もが認めることでしょう。
村上作品は「文学」なのか。「もちろん」と、フリーマンは言う。だが、全米書評家連盟の会長も務めたフリーマンは批評家の観点から、「村上に賞を贈るのが難しい理由は2つある」と考えている。 まず、実際にはそうでなくても、即興で書かれたような雰囲気があること。第2に「ナンセンスな喜劇性があること。コミカルなテイストを持つ作家が高い評価を得るには時間がかかる」と、フリーマンは言う。Location217
ノーベル賞と村上について、海外の批評家が語る部分、非常に興味深いです。
やはり"ナンセンスな喜劇性"と表現されるように、アメリカ人から見ても、
彼の文章は理解が難しいのでしょうか。
日本の若者が味わった全共闘運動での挫折と喪失感、消費資本主義社会に移行する過程での精神的葛藤──『ノルウェイの森』はそうした若者の姿を知的で抑制された筆致と、みずみずしい感性で描いている。 この点が80年代の民主化運動に参加した韓国の若者の心をつかんだ。軍事政権を倒した後、虚脱と虚無感にとらわれていた世代だ。彼らは村上の小説に、自分たちが感じていた、豊かなのに空虚な社会の雰囲気がずばり描かれていると受け止めた。村上によって日本文学は初めて国籍と関係なく、純粋に1つの作品として受容されたのだ。 Location260
韓国での村上春樹の受容に関して書かれた部分。
消費資本主義社会に移行し空虚になった日本を書いた小説に、軍事政権後の彼らは共感したようです。
フランス人は、白黒をはっきりさせなくてはならない二元的な価値観から解放された村上ワールドに魅了される。善悪が表裏一体を成し、平凡な日常に美が潜み、社会の現実が不条理や幻想と共存する世界にのめり込んでしまう。Location303
フランス小説は確かに『モンテクリスト伯』等、二元的な価値観を元にしたものが多い気がします。
作家は規則正しく生活し、執筆を続けていくために地に足を着けて生きていくべきだと、村上は信じている。私はフランスの作家ギュスターブ・フローベールの「ブルジョアのように規則正しい生活をしなさい。そうすれば荒々しくて独自のものが書ける」というアドバイスを思い出す。Location105
毎日朝早く起き、ランニングを欠かさない村上春樹。
ブロガーのみなさんも「荒々しくて独自のもの」を書くために、
規則正しい生活をしてはいかがでしょうか?人のことを言える立場ではありませんが。
村上はノルウェーに次々と上陸する日本文学の先駆けとなった。13年はよしもとばなな、川上未映子、諏訪哲史といった小説家だけでなく、詩人の伊藤比呂美や平出隆の作品まで出版される予定で、NRKノルウェー公共放送局は3月に「日本文学出版ブーム」をラジオやインターネットで大きく取り上げた。 Location333
ノルウェーに「日本文学出版ブーム」なんてものがあったのですね。
【キンドル版のみ】
いかがだったでしょうか。
上にも書いたようにニューズウィークの雑誌から、
村上春樹の特集を抜粋した電子書籍になるので、ものの数十分で読むことができます。
価格も292円とかなりお買い得なので、Kindleを持っているハルキストは、ぜひ。
Amazon.co.jp: 日本人が知らない村上春樹(ニューズウィーク日本版e-新書No.8) 電子書籍: ニューズウィーク日本版編集部: Kindleストア