英国のゲイ小説
イギリスの作家、E・M・フォスターが書いた短編小説「アーサー・スナッチフォールド」を読んだ。
同性愛的要素を含む、と聞いて以前から気になっていたんだけれど、
プライド月間ということでようやく手に取ったという感じ。
当時英国では犯罪だった同性愛について書かれた短編小説なので、
EMフォスターの死後に発表されたんだそう。
ざっくりいうと、
上流階級の初老と、労働者階級の若者との行きずりのセックスがテーマの短い作品。
冒頭から主人公のリチャード・コンウェイ卿が上流階級であることが強調されるのもイギリスらしい。
牛乳配達の男の描写がいかにも同性愛者な視点。
男が近づいてくるにつれ、 コンウェイは、色彩効果ばかりでなく、男がその場面に実にふさわしい若者だということに気づいた。肩幅が広く、顔は肉感的で開放的。まぶしそうに編めたが陽気な気配を 漂わせている。片方の腕を直角に曲げ、もう一方の腕で牛乳の缶を支えている。「おはよう。上天気ですね」と呼びかけた声は幸せそうだった。
自然や庭園の描写もイギリスらしく見事。
(マンスフィールドの『園遊会』とか特にそうだけど)
庭園と木々の緑には灰色がかかっていた。まるで拭き取ってやらねばならいかのようだった。
むろん欠けているのは色彩なのだ。 デルフィニウ ム、サルビア、ヒエンソウ、ヒャクニチソウ、タバコ何でもいいから植えておけば いいのだ。
労働者階級の牛乳配達の男への表現がえげつない。
近くで見ると粗野な男だった。出まみれの分厚いをしたのである。その種の人間は、百年前なら踏みつけられて土に埋まっていただろうに、今は勢いよく飛び、 何もまったく怖いものがないのだ。
後半はネタバレになるから詳細には書かないけれど、
結局は自分のせいで男が捕まってしまい・・・という話。
フィクションとしてこういう話があったということは、
当時、イギリスの庭ではこういうことが行われていたんだろうなと
そこはかとなく感じさせるストーリーだった。
牛乳配達の男が捕まったあたりの会話から漏れ出る主人公の感情の揺れとか
ラストの煮え切らない感じとかも◎。
遠回しに階級社会への批判を感じるような、含みのあるところも良かった。
自然や庭の描写は、アメリカの雄大でインパクトのある感じよりも、
しっかり細部まで書き込まれている方が日本人向けな気がするなと改めて思ったり。
E・M・フォスター自身がゲイだったので、
おそらく体験談的なところもあったのではないか、と思わせる内容だった。
ほんの一瞬だけど直接的な性描写もあるし。
「肛門性交罪」は殺人・強盗並みの重罪とされた、という話もあるぐらい
重い犯罪とされていたそうで (しっかり裏とってないけど)
映画『イミテーションゲーム』でアランチューリングがゲイであることをバレるのを恐れる意味がいまさらながら理解できたなと。
日本で触れるゲイ的ポップカルチャーはアメリカものに偏りがちなので、
イギリスやその他の国の文化もいろいろ意識して見て/読んでいきたいなと。
E.M.フォスターといえば、
映画化された『モーリス』が有名。
ただ、僕は自分がゲイだと気づいてなかった大学1回生のときに、
図書室の視聴覚室でため、正直あまり楽しめなかったので
うん年振りに観てみるのもありかなぁと思ったり。
EMフォスターの『永遠の生命』もゲイ的な短編小説小説だとのことなので、
また図書館で借りてみようかな。
プライド月間ということでいろんなクィアなポップカルチャーを紹介しようと思っていたけど、結局これをぎりぎり紹介するだけになってしまった・・・。
また機会があれば色々書いていきたいなと。