【名エッセイの記念版】
『限りなく青に近いブルー』や『コインロッカーベイビーズ』などドラッグや性描写で溢れた長編が有名な村上龍。
彼は長編だけでなく、映画や短編、そしてエッセイの書き手としても有名です。
今回紹介するのは、ファッション雑誌等に掲載された『すべての男は消耗品である。』というエッセイ集。
30周年記念版、ということで、13冊分がまるまる収録されています。
こういうのがキンドルの良いところですね。
暇なときに気になる部分をちょこちょこ読み進め、ようやく読み終えたので、感想を書いてみたいと思います。
Kindle Unlimitedで読めますので、気になる方はぜひ。
『すべての男は消耗品である。』30周年記念 完全版
Kindle版レビュー
あまりにボリュームがあるので、気に入った部分をかいつまんで紹介したいと思います。
まずはこの文章から。
男の犯罪と芸術はすべて勃起をおさめるために発生する 位置1,840
いかにも村上龍らしい一文。
まあ、ある意味核心を突いているのかも知れません。
Ryu Murakami自身の芸術へのスタンスがはっきり示されているように思えます。
「日本文学が潰れても、文学が潰れるわけじゃない」の章より
考えてみれば、村上春樹も吉本ばななも、そして彼らの主人公達も、ポジショニングを拒否している。 位置5,182
いつまでも飽きられることなく、世界中で支持される作家は、ひとつのレッテルを貼られることを嫌うのでしょうか。
確かに村上春樹も吉本ばななも、毎回違ったアプローチで小説を書くように思われます。
「自分が見たいと思うものは全世界が見たがる」そう思うところから映画は始まる 位置7,456
最近の映画で言うと、 『ブレードランナー2049』も監督ドゥニ・ヴィルヌーヴが見たいがままの世界観が、そのまま表現されているように思えます。
AIの恋人が新しいソフトをインストールするシーンは、ただならぬ執念を感じました。
すべての兵士が消耗品であるのとまったく同じように、私達オスはどうあがいても消耗品であることから逃れることはできない。 位置7,745
代わりはいくらでもいるし、子供を産めるわけでもないし、いつか必ず死ぬし、死と隣り合わせのような無謀なことをやらなければ、必要な情報は得られない。位置7747
しかしだからこそ、自由な存在になれる可能性を持つ。それが私の言う消耗品なのである。 位置7748
『すべての男は消耗品である』というタイトルには、実は下の句があって、それは「だから自由だ」というものだ。 位置20,303
このエッセイのタイトルである"消耗品"というワードに焦点を当てた文章。
なるほど、「消耗品」をネガティブに捉えるな、というのが村上龍の意図のようですね。
ゲイの僕からすると、女性に振り回されずに済むゲイは、ちょっとズルい立ち位置にいるのかな、とも思ったり。
日記は小説に敵対している。 小説家は、情報を物語の力によって強化するために虚構をつくる。 位置9756
なるほど、そのように認識したことはなかったです。
日本を象徴する言葉を一つだけ上げるとしたら、「間」だろう。 9907
日本文化を代表する庭園や建築、能や歌舞伎という面を見ても、「間」というものが根幹をなしていることに気づかされます。
もう一つあげるなら、「呼吸」というワードがあらわれるのかもしれませんね。
日本人は外圧がなければ、物事を考えたり、制度を変えようとしたりしない、とよく言われるが、それはどこの国も同じだ。物事を必死で考えたり、制度を変えたりするのは骨が折れる作業なので、できれば誰もそんなことなしで済ませたい。この国は外圧がなさすぎたのだ。 10,201
以前、『ゲイ・カルチャーの未来へ』という本を紹介しましたが、もう一度この文章を記載しておきます。
台湾の場合は、反中国というのをプッシュしているところがあるように思えるんです。それはたとえば、ウクライナが反ロシア的な形でEUに寄りたいからLGBTの権利運動が進んでいるというのと似ています。 そう考えると、日本は逆張りをするような相手がとくにいない気がするので、そういう意味では、推進力に欠けるのかもしれません。
『ゲイ・カルチャーの未来へ』 P.203より
ただ単に権利向上だけを訴える動きだけでは社会を動かす力にならず、何か外圧に対して反発するような別の要因がなければ、人・社会派変わることが出来ないということでしょうか。
また、"草食系男子"という言葉の出現について、
きっと日本社会においては、「どうでもいいような象徴的な表現」が常に必要とされているのだと思う。 20,309
最近でも "充実している上司"を表す"ボス充"なる聞き慣れないワードが生み出されたり、「象徴的な表現」が収まる気配はありません。
みんな”所属していないもの”を恐れているのでしょうか?
だが、社会的怒りは「しょうがない」という言葉では消えない。変質して、どこかに沈殿する。 23,191
最後にこの文章を。
なぜだかオウム真理教による「地下鉄サリン事件」を思い出しました。
エッセイストなRyu Murakami
男・女という性に対する概念がゆらいでいる現代に、改めて読んでみましたが、なお輝きを増したかのように興味深く読むことができました。
村上龍のエッセイは、重い内容もも軽いこともサクッと読める魅力がたまりませんね、
今回紹介したのは完全版、ということで、なんと13冊分がまるまる収録されています。
「 まさか、30年も連載が続くとは思わなかった。 」と本人も驚いていくボリューム。
Kindle Unlimitedの読み放題対象の電子書籍なので、気になる方はぜひ。
すべての男は消耗品である。VOL.1?VOL.13: 1984年8月?2013年9月 連載30周年記念・完全版
- 作者: 村上龍
- 出版社/メーカー: 村上龍電子本製作所/G2010
- 発売日: 2014/06/16
- メディア: Kindle版
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