世界のねじを巻くブログ

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2021年に心揺さぶられたKindle本10選

電子書籍振り返りin令和三年

令和3年に読んだ"おすすめのKindle本"。
年末恒例のブログ記事、だいぶ遅れましたが軽くまとめてみようかと。
(今年読んだ本なので、2021年発売の本ばかりではないです)

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ざっと印象に残った十冊をジャンル問わず紹介していきます。

トレバー・ノア 生まれたことが犯罪! ? / トレバー・ノア

以前ポッドキャストでコラボした海外コメディラジオさんのおかげで知った、
スタンダップコメディアンのトレバーノアの自伝。

白人と黒人の両親に生まれ、生まれたこと自体が罪という
壮絶な人生体験。

普通、子供というものは両親の愛の証だけど、僕の場合は両親の犯罪行為の証だった。オヤジといっしょにいられるのは家の中だけ。家を出たら、オヤジは僕たちとは通りの反対側を歩かなければならなかった。

南アフリカが舞台で、スラムのなかでトレバーがもがく様子が描かれます。

アパルトヘイ、犬を買って取り返す話、バイクから飛び降りる話、
黒人と猫の話などなど。

あと、かあちゃんが偉大すぎて・・・。

ネルソン・マンデラに対する見方もなるほど、そうなるのか、という発見があったり。

ブラジルのスラムを描いた映画『シティー・オブ・ゴッド』なんかが好きな方はおすすめ。

わんぱくトレバーノア少年の壮絶な自伝、
モンティパイソンの
「Always Look on the Bright Side of Life」を地で行く、
この図太さは見習いたいですよね・・・。

「The Daily Show」の司会者といえばわかる方がいるかも。

 

クララとお日様 / カズオイシグロ

ノーベル文学賞受賞後の長編として、かなり注目度も高かった『クララとお日様』。

「AIロボット×宗教」というテーマはカズオイシグロさんにしかできない芸当でした。

"ちょっと不穏なトイストーリー"という感じではじまり、
あの独特の不気味さを引きずったまま、話は進んでいきますが、
クララのひたむきさや子供たちの健気さに心打たれたりも。
大人の怖さや社会の分断、心とはなにか?など幅広く、かつ自然に読者へ問い描いかけをしていて物語としてさすがの出来でした。

「感情がないって、ときにはすばらしいことだと思う。あなたがうらやましいわ」  わたしはしばらく考え、「わたしにも感情があると思います」と言いました。
「多くを観察するほど、感情も多くなります」

カズオ・イシグロさんもノーベル文学賞を気負わずに
のびのびと書いておられるようでそこも良かったな。

それでも、個人的には
『日の名残り』『わたしを離さないで』の衝撃には敵わなかったというのが正直なところ。

読後感として、クララがひたむきに突き進むところをどう捉えるかで、
物語のとらえ方が大きく変わってきそうな本だなと思いました。

ちなみに現在進行形で『恋するアダム / イアン・マキューアン』を読んでるのですが、
2021年に出版された、英作家のAIに関する本、ということで
比較しながら読むとめちゃくちゃおもしろいです。
また恋するアダムの感想もまとめようかと。

 

フライデーブラック / ナナ・クワメ・アジェイ=ブレニヤー

#Blacklivesmatterに関心がある方なら、絶対に読んで欲しい一冊。
話ごとに世界観は違うものの、
どれも人種というひとつのテーマが貫かれているので、
読後感もかなり刺さるものがありました。

SF的な世界観をユーモアまじりに書いていく短編集。
若い著者なのにほんとにすごい。

リアリティーと虚構の混ぜ方のバランスが絶妙でした。

おすすめの短編は、

「フィンケルスティーン5」「フライデー・ブラック」「小売業界で生きる秘訣」あたりですかね。

実際に子どもが殺されてこの世界から消えるよりも、俺が一日に一千万回でも二千万回でもゲームの中で殺される方がマシだ。

ジョージ・フロイド事件の警官、22年懲役の判決が出たそうで、
とりあえずは、というところ。

決して"重い"だけの本ではないので、あらゆる日陰者に読んで欲しい一冊。
ゲイとしても、こういうユーモアをもちあわせていたいものです。トレバーノアの自伝もそうですが、
数年前に流行った洋書の日本語版を2,3年後に読むことが多くなってきたような・・・。

 

 

ムーン・パレス / ポール・オースター

ポッドキャストのコラボ回でも話した、
Paul Austerの代表作『ムーンパレス』。

学生の頃から読もうとして、何十年越しにようやく読めました。
読書会的な感じはひさしぶりだったので、
なかなか印象に残った一冊でしたね。

それは人類がはじめて月を歩いた夏だった。そのころ僕はまだひどく若かったが、未来というものが自分にあるとは思えなかった。僕は危険な生き方をしてみたかった。とことん行けるところまで自分を追いつめていって、行きついた先で何が起きるか見てみたかった。

音楽・映画・本・名所など、旅小説としても読める一冊なので、
アメリカン・カルチャーが好きな方はぜひ。

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ポールオースターの作品、もっと読んでいきたい。
次は『ガラスの街』あたりかな。

 

うたのしくみ 増補完全版 / 細馬宏通

ユーミンから岡村靖幸まで「どうしてあの歌が心に響くのか」という
「うた」のエッセンスをひも解く一冊。

やわらかいタイトルで、書かれている言葉もかみ砕かれてわかりやすいですが、
その分析はすごいの一言。

冒頭のユーミンの「やさしさに包まれたなら」の解説を少し。

ユーミンはこの部分に「さ」に先立つ「S」の音をさあっと忍ばせているのです。

そもそも、サ行の音には、他の行にはない独特の力があります。日本語の音の多くは、子音と母音が1セットになった「モーラ」という単位でできていますが、「さしすせそ」の音では、このモーラの、子音部分を強調しながら、しかもいくらでも引き延ばすことができます。

うたをたしなむ人なら読んで損はないかと。

ほかに良かった音楽本をあげておくと、

名盤レコーディングから読み解くロックのウラ教科書も録音やマイクロフォンに焦点を当てた本としてマニアックでしたが、
ポッドキャスト配信者としては、かなり楽しめました。

レコーディングの裏側を知りたい方にはほんとおすすめ。

 

ちょっとでもAbleton Live!に興味があるなら『サウンドプロダクション入門』は
ほんっとにおすすめ。
(制作側の専門的なことが多いので、音楽家かDTMerじゃないとちょっと厳しいかも)

またブログで紹介しようと思います。

 

批評の教室 / 北村紗衣

はてなブロガーの本ということで、
一冊あげておこうと思ったのが、
北村紗衣さんの
批評の教室──チョウのように読み、ハチのように書く (ちくま新書)』。

批評の教室、全体的に作品への愛が伝わってくるのがいいなぁと。

身も蓋もない話になりますが、批評をする時は自分の性的な嗜好や趣味をきちんと理解しましょう。これは批評する側のバイアスを認識するという問題にかかわることです。

基本的に作品は世に出た瞬間、作者の手を離れるものだと考えてください。異なった文化的背景を持ついろいろな受け手が作品を受容し、違う解釈を作り出すところに批評の醍醐味があります。

実際の批評を批評家同志でコメントしあう部分も興味深かったです。

sakibouさん、実はポッドキャスト(というかTBSラジオ)のアフター6ジャンクションにも
何度も出演されてたりもします。

(オープンレターうんぬんはあんまり追えてないのでノーコメントで。)

 

はてなブログ関連でいくと、
2020年はyomoyomoさんの『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて: 続・情報共有の未来』、

2021年は他にも
フミコフミオさんの『神・文章術』、
柴那典さんの『平成のヒット曲』と意外と出てるしなんだかんだ読んだなぁ、
という印象。

文章や切り口が面白いブロガーさんはたくさんいるので、
KADOKAWAとのコラボなどで書籍化してほしいなと思いました。

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カトマンズでLSDを一服 / 植草甚一

あの時代のドラッグカルチャーを日本語で記録している
という意味ではかなり貴重な一冊。

ハシーシやメスカリンが効きだしたときのように、しぜんと 目 ぶたがふさがる。すると音楽が目に見えてきた。一つの音が明りで書いたようになり、キラキラと雑色になって飛び散る。

無限に大きい万華鏡のまんなかにいるようだし、ある音が、ほかの音よりも強く、ぼくのなかで反響し、それが後頭部や胃のあたりをシビれさせ、打楽器の音が強烈な電気ショックのように全身を飛びあげるようにするのだった。

中島らもさんの『アマニタ・パンセリナ』あたりが好きな方はぜひ。
漫画『ウルトラヘブン』も実は今年読んだのですが、
これもなかなかブッ飛んでました笑

古本でも手に入りにくい本が電子書籍化されるのは、ほんとありがたいですね。

 

 

Futureproof / Kevin Roose

キンドルらしく(?) 洋書を一冊いれておくと、

「AI時代をどう生きるか」という未来予測のようなものも含めたビジネス書。
ニューヨークタイムズTech記事に寄稿しているKevin Rooseという方が書いた一冊。

実はPodcast経由で知ったのですが、サクッと読めて内容もわかりやすかったです。

『Futureproof: 9 Rules for Humans in the Age of Automation』というタイトルの通り、
9つのルールでまとめられているので、ビジネス書を英語で読みたいという方にもいいかも。

そのうち「フューチャープルーフ」日本語版も出るんじゃないかな、と。

簡単にまとめると、

「サプライズ・コミュニティー・希少性」 がキーワード。

機械にできない驚きを、
ソーシャルで人とのつながりを大切に、
組み合わせで自分の希少性を高めよ、

・・・的な内容でした。

要するに、効率性だけを求めることや、
テクノロジー的なスキルだけはだめ、ということ。

AI化されるものの実例だったり、そうでないものだったり
なかなか興味深かったです。

 

ボルヘス怪奇奇譚集 / ホルヘ・ボルヘス

いままでラテンアメリカの小説って『アルケミスト』ぐらいしか読んでなかったのですが、
短篇小説を皮切りに、ラテンアメリカの小説を読むようになりました。

Kindleで出版されているのはあまり多くなく、
ボルヘスが世界の怪奇談や伝承・説話をあつめた一冊をあげておきます。

マトリックスにも出てくる有名「荘子の夢」が出てきたりもします。

荘子の夢  荘子は 蝶 になった夢を見た。そして目がさめると、自分が蝶になった夢を見た人間なのか、人間になった夢を見た蝶なのか、わからなくなっていた。 ハーバート・アレン・ジャイルズ『荘子』(一八八九)

民俗学が好きな方や、
夏目漱石の『夢十夜』が好きな方におすすめです。
寝る前にさらっといくつか読むにもぴったりの一冊。

ラテンアメリカ文学にいまさらハマるというあれなんですが、
コルタサルやマルケスあたりもどんどん電子書籍化してほしいな~と。

 

三体シリーズ / 劉慈欣

いれようか迷ったのですが、一応。
日本語訳も完結したので2021年話題になりました。

最終巻の三部は風呂敷を広げすぎで、
個人的には『三体Ⅱ』のほうが好みでした。

いま、人々は学んだ。終わりのない宴はない。あらゆるものに、かならず終わりがある。

日本に対する描写がステレオタイプすぎるところや(日本刀や茶道)、
ルーブル美術館やエドガー・アラン・ポーなどありきたり(?)な引用が、
物語のスケールと比較してうーん、と思ったりもしたのですが、
全体としてやっぱりおもしろかったです。

1部については、VR・メタバース的な視点でみても楽しめるので、
この小説が2008年から書かれたというのはほんとに驚きのひとこと。

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決して日本のSF小説も負けているとは思わない
ので、
世界の目がアジアに向いている間に、
日本もガンガンアピールしていってほしいな~と。
(※音楽もドラマも同じことを思う一年でした)

三体

三体

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おいしさの錯覚 / チャールズ・スペンス

なんだかんだ毎年でフード・グルメ系の本を選んでいるので、2021年もチョイス。

『おいしさの錯覚 「おいしさ」の錯覚 最新科学でわかった、美味の真実』

五感のみならず、心理的な部分に興味があるなら必読の一冊。

結局のところ、中立な環境や背景など存在しない。環境だけでなく皿の形や料理の名前、あるいはカトラリーなどのすべてが食体験に影響することをガストロフィジクスが証明しつつある。

 

面白い事例として、スイスにあるデニス・マーティンのモダニストレストランの話も興味深かったです。

食事客がテーブルについても、すぐには給仕を始めない。すると、テーブルに置かれている置物がスイス流の塩の容器や胡椒挽きなのだろうかと不思議に思った客たちが、牛を手に取る。底面を見ようとして傾けると、その置物は悲しげな「モー」という音を出すのだ。驚いた客の多くは笑いはじめる。あっという間に、ダイニングルームは牛の「モーモー」という合唱で満たされ、笑顔が広がる。

人々の気分が明るくなったところで、コース料理の一品目がキッチンから出てくる*2。結局のところ、私たちの気分が、食事体験を左右するもっとも重要な要素と言える。だから、人々の気分をよくすることに力を入れるべきなのである。

嗅覚・触覚の部分が特に面白く、ぜひ読んで欲しい一冊。
フードポルノは罠ですね・・・・。

表紙が淡白なのであまり期待してなかった本だったのですが、、
(ちょっと冗長な部分はありましたけど)
食という概念を揺さぶられ、かなり楽しめた一冊でした。

Kindle Unlimited読み放題対応なのでおすすめです。

料理系でいくとほかにも、
若者シェフが世界各地で奮闘する『アマゾンの料理人』も
Saku Yanagawaさんとかぶる部分があるような気がしたりで面白かったです。

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ほかにKindleで読んだ話題作でいうと、

本屋大賞を受賞した、ディーリア・オーエンズの『ザリガニの鳴くところ』
詩集を読むきっかけになったので、そういう意味では思い出深い一冊。
沼地や自然の描写は美しく、世界観ごと頭にのこる一冊でした。

ですが、恋愛小説的なところが思ったより多く、
個人的な好みでいうとど真ん中ではなかったので、今回10冊には入れず。

2022年はドストエフスキー生誕200周年ということで、
『カラマーゾフの兄弟』に挑もうと思ってます。

 

2021年は、Kindle Unlimitedの同時に利用できる本の上限が
10冊から20冊になったので、
いろんな電子書籍に目移りしてばっかりの一年でした。

ほかにもお気に入りのキンドル本があれば、コメントで教えて頂けると幸いです。

みなさんも良い読書ライフを。

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